日本リーグ2007
【12/29 東京大会観戦記】
日本リーグ2007最終日となったこの日、会場となった代々木第2体育館は、3,000人を超える観衆で埋まった。
男女全16チームが一堂に会したのだが、各試合、見どころが満載だった。
ただ思うことは、4面設けられたコートで、一斉に試合が行われるため、お目当ての選手らが、そこここに登場する。
2時に始まった第2試合。第1ダブルスにエースダブルスが登場した。
この日も、第4コートで行われた三洋電機対ヨネックス戦に注目したのだが、小椋久美子・潮田玲子ペアと、赤尾亜希・松田友美ペアのライバル決戦が楽しみだった。
加えて、隣りのコートで戦うNEC九州の末綱聡子・前田美順ペアが、昨日の痛手からどこまで立ち直ってきたかが気になった。
男子では、第2コートでトナミ運輸対日本ユニシス。トナミ運輸の第1ダブルスは、シドニー五輪複王者のチャンドラ・ウィジャヤが、平田典靖選手と組んで登場している。
さらに、第1コートではNTT東日本の第1ダブルスに、田児賢一選手(埼玉栄高=内定選手登録)が、キャプテンの松本徹選手とペアを組み、登場。全勝優勝がかかった大事な試合だ。
4つのコートで、日本最高レベルのダブルスが同時に行われるのだ。
見どころ満載。これこそ日本リーグの醍醐味だが、複数のコートを同時に見るなんて不可能。開幕戦の塩釜大会でも、3面すべてに、同時にナショナルチームメンバーのダブルスが登場という豪華さだった。それも魅力ではあるが、できれば1試合、1試合を集中しながら堪能したいと思えば、こうした試合形態では無理がある。こればかりは本当にもったいない。
会場を訪れてくれた方々に、一試合でも多くハイレベルな試合を見て欲しいと考えるのならば、やはり“見せ方”は重要な改善ポイントなのではないだろうか?
さて、試合の方である。
昨季、最終戦で敗れ、優勝はしたものの、悔しさも残ったヨネックス戦。三洋電機には全勝優勝という高いモチベーションがあった。
対するヨネックスは既に2敗。ライバル・三洋電機戦とはいえ、チームの目標は漠然とし、コンディションニングは難しかったはずだ。
しかし、赤尾亜希・松田友美ペアは高い集中力をもって、この試合にのぞんできた。
中盤以降の競り合いを制し、18−21で第1ゲームを先取した。
ライバル対決。オグシオ(三洋電機)vs アカマツ(ヨネックス)
接戦への期待が増した。
が、一方で、ヨネックスの、この日のチームコンディションを思えば、赤尾・松田ペアとて、どこまでメンタリティーが継続されるか、不確かだった。
悪い方の予感が当たった。第2ゲームに入ると、小椋・潮田ペアの集中力が優り、一方の赤尾・松田ペアは、“心のスタミナ”が急速に低下したように見えた。
21−11。14分ほどの試合時間で、小椋・潮田ペアが並ぶ。
一度傾いた流れを断ち切るだけの思いが、残念ながら、この日の赤尾・松田ペアにはなかった(致し方ないことでもあるが……)。
ファイナルは21−15。第1ゲームで競ったため、試合時間は1時間超えだったが、そこまでの競り合いを実感できないまま、まずは三洋電機が1ポイントを奪った。
続くシングルス。今別府香里選手対亀谷望選手。
前日28日(金)の敗戦から、どう立ち直ったか。今季二冠の今別府香里選手に注目した。
相変わらず試合前の表情は硬い。なので、どこまでのプレッシャーを感じながら試合に入ったかは分かり難い。
いつものように、立ち上がりは競る。が、この日の今別府選手は立ち止まらなかった。
3−2から13−4まで突き放し、このゲームの趨勢を決めてしまった。
21−14で制する。
第2ゲームも終始ゲームをコントロール。こちらも14本与えただけで勝利を決めた。
「昨日の試合(NEC九州・藤井瑞希戦で敗れる)が本当に悔しくて。でも、今日の試合のことを考えて、気持ちを切り替えなくてはと思っていました。この日本リーグでは、全7試合に出させてもらって。どこかで他の人が出るんやろうなあって思ってたんですけどね(笑)。凄くいい経験をさせてもらったので、これを今後に生かしていきたいです」
と、今別府選手。“常勝軍団・三洋電機”のエースを託された重圧を、見事にはねのけた。
「やっぱり全勝したかったですね(笑)」
最後はいつもの笑顔を見せてくれた。
これでチームは全勝優勝が決定したのだが、気の緩みは感じられなかった。
第2ダブルスも取って、3−0で勝つことが目標だったからだ。
脇坂郁・多谷郁恵ペアの対戦相手は、大熊倫子・今別府靖代ペア。
大熊選手は主将を務め、この日本リーグを最後に、引退を決めていた。
また、今別府靖代選手は、三洋電機の今別府香里選手の実姉。小学生の頃から全国大会で実績を残してきたが、最近はダブルスに専念。ナショナルユースの一員でもある。
ヨネックスの第2ダブルスとして、常に存在感のあるペアだ。
が、この日の脇坂・多谷ペアの出来は本当に素晴らしかった。
二人とも昨日の好調さを、さらにレベルアップさせた印象。静かに、淡々と配球の巧みさで相手ペアを圧倒していた。
まるで詰め将棋のような、理詰めの配球。
時にネット際に誘い出し、或いはエンドライン際に追い詰める。そして、強打というより、空いたスペースへ巧みにシャトルを落としてエースを取った。
162cmの脇坂選手、161cmの多谷選手の、けっして背が高いとは言えないペアが、まるでコートを俯瞰しているかのように、相手コートの空いたスペースにシャトルをコントロールさせていく。
前日、「ゾーンに入った」ようなと表現したが、さらにその上を行く、圧倒的な強さを見せた。
大熊・今別府ペアに、ほとんど連続得点を許さず、15本に抑え込んで、第1ゲームを取った。
第2ゲームになると、脇坂・多谷ペアはさらにペースアップする。
他のコートでは、既に全試合が終了し、この試合だけが行われていた。観衆のすべての目が注がれていたのだ。
ポイントは18−9。
記者席には、大会MVPに脇坂・多谷ペアが選ばれたとの情報が伝わってきた。
大熊・今別府ペアのサービスだったが、脇坂・多谷ペアが残り3ポイントをどう奪い勝利するのか、関心はそこにあったと思う。
悲劇は次の瞬間に起こった。
深めに打ち込まれたサービス。多谷選手は、バックステップを踏みながら、体を大きく反らせ、取りに行く。が、足が不自然にもつれた。
倒れ込む多谷選手。そのまま動けなくなった。歩み寄る脇坂選手。首脳陣も駆け寄る。
パートナー以外の者が選手に触れれば、その瞬間に棄権とみなされる。
本人の意思を確認しなければならない。
「(やると言っています)」
脇坂選手の口は、そんな風に動いたように見えた。
痛みのせいか、涙さえ流した多谷選手は、一度、二度屈伸をし、試合続行への意欲を見せた。
が、最後には喜多努監督が、敢えて多谷選手の肩に手を乗せ、棄権を促したのだった。
あと3ポイントだった。この試合に勝てば、6戦全勝(塩釜大会での三菱電機戦は、多谷選手が右肩を痛め欠場)。MVPに花を添えられるはずだった。
それより、素晴らしい内容のこの試合を、最後までやり通したかったはずなのだ。
そしてなにより、喜多監督の悲痛な表情が印象的だった。刈谷大会の頃から、彼はさかんに多谷選手への高い評価を口にしていた。その選手が、2007年、最後の最後で故障を負った。
チームをつかさどる監督として、これ以上の悲しみはなかったはずなのだ。
最終スコアは18−10の段階で、脇坂・多谷ペアの棄権負け、ということになる。
三洋電機対ヨネックス戦は、2−1で三洋電機の勝利となった。
これをもって、日本リーグ2007の全日程が終了した。
優勝は、男子がNTT東日本(11年ぶり、16回目)。
男子優勝・NTT東日本チーム 11年ぶり、16回目
女子は三洋電機(6年連続、13回目)。
女子優勝・三洋電機チーム 6年連続、13回目
大会MVPは、男子が松本徹選手(NTT東日本)。女子は脇坂郁・多谷郁恵ペア(三洋電機)だった。
脇坂・多谷ペアの負傷棄権負けは、MVP受賞の妨げにはならなかった。
表彰式では、多谷選手は車椅子に乗って参加。楯を手渡されると、いつもの優しい笑顔が浮かんだ。
各種表彰。引退選手へのセレモニーを終えると、これで本当に日本リーグは閉幕。
各チームは思い思いに記念写真を撮り合ったり、顔馴染みの選手とは慰労の言葉をかけ合い、来季の再会を約束し合っていた。
全チーム参加だからできる、最終節での心温まる光景だった。
優勝チームは記者会見にのぞんだ。最初に男子。要約。
松野修二総監督
「11年ぶりの優勝と聞いて、そんなに勝っていなかったのか、という印象。他チーム(トナミ運輸、日本ユニシス)は、外国人選手で補強していますが、ウチは日本人選手だけで戦ってきました。なにより全勝優勝できたことがうれしい」
この日本リーグで引退する主将の松本徹選手。
「日本リーグで、優勝したくて、したくて、ここまで頑張ってきました。最後にこういう素晴らしい経験ができて、うれしく思います」
全日本総合男子ダブルス王者・川口馨士選手。
「山場はトナミ運輸戦(第3節倉敷大会)でした。1−1で迎えた第2ダブルスで、僕ら(川口・川前直樹ペア)が圭太さん・大束さんになんとか勝てて、あれでチームが乗っていけたと思います」
そのパートナーの川前直樹選手。
「日本リーグで優勝することが、入社したときからの夢でした。3年目でその夢が叶い、最高の瞬間が味わえました」
エースの佐藤翔治選手。
「この日本リーグでの優勝だけでなく、来年は全日本実業団でも勝って、一年間、ずっと勝ち続けたいです」
内定選手として参加した田児賢一選手。
「初戦は負けたのですが、その後は勝ち続けることができて、貢献できたと思います。内定選手なのに新人賞ももらえて、うれしい。来年からは、本当にチームの一員として、連覇に貢献し、またこの場(優勝会見)に居たいと思います」
続いて女子、三洋電機。
喜多努監督。
「振り返ると、ヤマは第2戦となった塩釜大会の三菱電機戦だったかなと。ナショナルのメンバーが遠征で不在。多谷が肩を痛めて欠場と、内定選手の三木(佑里子=越谷南高)を加え、ダブルスを急造ペアで凌いで勝てたのですが、肝を冷やした試合でした」
脇坂郁選手。
「優勝できたことが本当にうれしい。今日は最後までゲームはできなかったけれど、こういうこともあるのだなあ、と思いました」
多谷郁恵選手。
「去年負けているヨネックス戦。絶対に勝ちたいという強い気持ちがあって、あのケガをした場面でも、ムリして取りに行ってしまいました。ケガを治して、来季は7連覇に挑戦したい」
今別府香里選手。
「リーグ戦を通じて、反省すべき点も多いのですが、来年はまた、ひとつ大きくなった自分を見てもらいたいと思います」
小椋久美子選手。
「表彰式のとき、何か賞がもらえるかなあと待ち構えていて、それがちょっと恥ずかしかった。塩釜大会のことは、遠征から帰って来て聞いて、そのとき頑張った選手の分も、残りのリーグ戦では頑張りました。去年負けたヨネックスに勝って、全勝優勝できたことがうれしい」
潮田玲子選手。
「昨日の脇坂先輩・多谷ペアの試合に、本当に感銘を受けて、勇気をもらいました。今日は1ゲーム目を落としたのですが、絶対に勝ちたいと思って試合をしました。全勝優勝できて、本当にうれしいです。この一年を振り返ると、スケジュールがとてもタイトで、よくこなせたなあ、自分ながらすごいなあと思いますね。最後に赤尾さん、松田さんのペアに勝てたし、充実した一年でした」
史上初、6連覇を全勝優勝で達成した三洋電機、今季のレギュラー選手たち。
前列左より、脇坂郁選手、多谷郁恵選手。
列左より、小椋久美子選手、今別府香里選手、潮田玲子選手。
優勝を果たせなかったチームは、早くも来季へと目を向ける。
トナミ運輸・舛田圭太選手。
「NTT東日本戦に敗れた試合が最後まで響きましたね。今年はチャンドラ(ウィジャヤ=シドニー五輪複王者)や内定選手ですが、即戦力の古財(和輝選手=日大)も居て、戦力としては、他の2強(NTT東日本、日本ユニシス)に引けをとりません。夏の全日本実業団では優勝でしたから。男子は、この3つでの争いが、しばらく続きそうです。この3強での結果は、やってみないとわからない。そんな中で、NTT東日本さんは、チーム作りが一枚上手だったかな、という感じでした」
日本ユニシス・池田信太郎選手
「最後の最後、足を痛め、チームに迷惑をかけてしまいました。NTT東日本戦(第5節松江大会)の2日前でした。でも第1ダブルスで出た以上、勝たなければならなかったですね(相手は松本徹・田児賢一ペア、1−2で敗れた)。悔いが残ります。この悔しさは、年明け、海外での大会に向けたいし、来年の日本実業、日本リーグで借りを返したいと思います」
女子ではNEC九州・今井彰宏監督。
「最終節の初日、三洋電機戦に敗れた悔しさはまだ抜けません。ただ、今年は若手の藤井(瑞希選手)が参加して、初戦から2連敗しましたが、その後は立て直して、最後は全日本総合王者(今別府香里選手・三洋電機)にも勝って、ポイントを取ってくれました。去年のリーグより、ひとつ順位を上げましたが、満足感はないですね。目標は高く持ちたい。来年はもうひとつ上を狙っていきたいです」
この日本リーグでも、戦いの中心にいたのは、ナショナルチームのメンバーだった。年が明ければ、北京オリンピックイヤー。その出場権争いが激化する。
「秋頃から対戦するペアのマークがきつくなってきました。研究もされています。なかなか結果が出せなくなっていますが、ここが踏ん張りどころです」
と、池田信太郎選手。
年明け早々、7日に日本を立ち、マレーシアでの合宿に入る。4月いっぱいまで、過酷なスケジュールの中で、出場権を争うレースが続く。
会見で語った小椋選手の率直な言葉が印象的だった。
「今の状態ではメダルは遠いと思います。ひとつでもふたつでもレベルを上げられるよう、練習を重ね、大会で結果を残していきたいと思います」
日本各地で行われた日本リーグは、多くの観客を動員できるようになった。それでも裏側から見れば、まだまだ改善の余地がある。人気選手を取り囲むメディアやファンへの対応は、会場によって違いが大きく、それが選手のコンディショニングにも、少なからぬ影響を及ぼした。
オグシオという存在は、確かに大きいが、他の選手たちのバドミントンにかける情熱は、けっして劣るものではない。
また、女子では、様々な障害を乗り越えながら、上位進出を狙うチームもある。
一方で、男子では“三強”とそれ以外のチームの格差は大きい。何より、そのチームに所属する選手らの思いに、微妙な落差を感ずる。
バドミントンは今、社会的に大きな関心を集めている。日本リーグに所属する全ての選手たちは、プライドと自覚を高めることで、社会的責任を果たす義務がある。
そしてそのことが、次代を担う少年少女たちの夢を導いていくのだ。
また来年、この日本リーグがさらにレベルアップし、活況を呈するよう祈りたい。そして、それをできるのは他の誰でもない、選手たちにしかできないことなのだ。
アッと言う間だったが、この観戦記を読んでいただいて感謝しています。まだまだバドミントンとの関わり合いは浅いが、またの機会には、私もレベルアップしてお目にかかりたいと思う。ありがとうございました。
(取材・文=ライター・佐藤純郎)
【12/28 東京大会観戦記】
三洋電機、6連覇達成!
優勝を争う三洋電機対NEC九州の、注目の一戦は、2−1で三洋電機が勝利。女子では初となるリーグ6連覇の偉業を達成した。
午前11時、メディア等関係者に配布された対戦カードは、ある意味予想どおりと言えた。
三洋電機は動かず、オグシオ(小椋久美子・潮田玲子ペア)を第1ダブルス。
シングルスに今別府香里。そして第2ダブルスは脇坂郁・多谷郁恵ペアを配してきた。
一方のNEC九州は動いてきた。
第1ダブルスは佐伯美沙都・今井幸代ペアを持ってきた。
シングルスは藤井瑞希。そして第2ダブルスに末綱聡子・前田美順ペアという布陣。
この日を想定して、さいたま大会でのNTT東日本戦、高岡大会でのヨネックス戦でシミュレーションを行い、いずれも勝利と言う結果を残してきた。
NEC九州サイドは、狙いどおりの組み合わせとなり、三洋電機サイドから見れば、予想どおり。いずれのチームにとっても動揺はなく、後は最高の結果を導くために戦うだけだった。
東京大会初日。男女計8チームが出場。
代々木第2体育館には4面のコートが並び、午後2時過ぎ、それぞれのコートで、いっせいに試合が始まった。
三洋電機対NEC九州のコートは入口から一番奥のコート。
代々木第2体育館の、独特の形状故に起こる風(エアコンの影響もある)、あるいは低く吊られた照明などに、選手たちは悩まされることになる。
前節、ヨネックスの赤尾亜希・松田友美ペアと1時間を超える、大接戦を繰り広げながら敗れた佐伯・今井ペア。オグシオの名に臆することなく、正面から向かっていった。
第1ゲーム。オグシオにミスが目立つ。
「第1ゲームは私たちサイドが風上。それで打った球が延びて、エンドラインを割るケースが多かったと思います。私たちはできるだけ前に出て、相手にプレッシャーをかけたいのですが、決めにいったショットがラインを割るケースが多く、それが第1ゲーム、もつれた理由だと思います」
と、試合後の会見で、潮田選手は競った理由を明かした。
佐伯・今井ペアは第1ゲーム、二度のゲームポイントを生かせず、25−27で競り負けた。
ここで勝ち切れなかったことが全てだったと思う。
サイドが変わった第2ゲームは、オグシオが序盤、一気に走った。2−1からの8連続ポイントで、ほぼ試合を決めてしまった。最終的には佐伯・今井の反撃を8本に抑え、まずは三洋電機、確実に1ポイント奪った。
「反省しなければならない点が多い試合でした。でもチーム戦なので、1ポイント取れたことの方が大事。ベンチにいるチームメイトや応援団の声援もあって、つかめた勝利だと思います」
と、会見の席上で小椋選手はコメントした。
シングルス。共に青森山田高校出身。インターハイ元女王同士の戦いとなった。
昨年の全日本総合2回戦で対戦し、高校3年生の藤井が、社会人2年目の先輩・今別府を13本、9本で圧倒していた。
しかし今年の今別府は全日本社会人と全日本総合を制し、自らの成長に手応えを感じている。ただ、リーグ戦が終盤を迎えるに連れ、試合内容が低下しつつある点が不安材料と見ていた。シングルスのエースとして、全試合出場を続けている目に見えない疲れ、プレッシャーが、次第に蓄積しているように思えた。
一方の藤井。リーグ戦開幕からシングルスを任されていたが、2連敗を喫した。しかしさいたま大会のNTT東日本戦、総合準優勝の後藤愛選手に、競り勝ったことで、自信を取り戻した。高岡大会のヨネックス戦では、米倉加奈子選手を破り、右肩上がりのまま、この試合を迎えた。
「去年勝っていたけれど、今年の今別府先輩は、総合で見たとき、パワーもスピードもグッと増したように見えました。でもその分、私が向かっていくことができたと思います。後藤さん、米倉さんに勝ったことで、ラリーになっても負けない自信がついていたので、それも結果につなげることができました」
と、藤井選手。2ゲーム共に15本を失っただけで、今年の総合女王を破った藤井選手。先に発表されたナショナルチームの選からは漏れている。
「今の私には、まだナショナルの一員になる実力は備わっていないと思っていました。フィジカル面などの課題を鍛え、ここからリスタートという気分です」
一方、今別府選手の話を聞く機会がなかったのだが、この試合での今別府選手は、かなりナーバスになっていたように見えた。春からこの日まで、初体験となる様々な重圧や勝利への周囲の大きな期待が、ズッスリと背中に乗っかっていたのかもしれない。
チームが優勝を果たしたことで、重責から解放された今別府選手。最終日の戦いが楽しみだ。
さてスコアは1−1。全ては第2ダブルスにかかってきた。
勝敗の行方は、第2ダブルスの結果に委ねられた。
NEC九州から見れば、予定どおりに事が進んだ。絶対的なエースである末綱・前田ペアは、ここをきっちり勝ってくれることを、当然のように期待されていた。
落ち着いて試合にのぞめたようには見えたのだが……。
一方の三洋電機。ベンチの首脳陣に動揺は全く見られない。どっしり構えている。
そして脇坂・多谷ペア。昨年、今年と、全日本総合の準決勝でオグシオと当たり、その壁に跳ね返されてきた。
しかし、準決勝敗退が、赤尾・松田ペア、末綱・前田ペアに続く、第4のペアではなく、肩を並べる存在、或いはそれ以上であることを証明する、絶好の機会でもあった。
また、前週、会津若松大会での不調もある。下手な試合はできなかった。
「会津若松では試合を通じてリズムがとれないまま試合を終えていました。今日も不安はあったのですが、中3日間で、気持ちも体も、この試合に持ってこられたと思います」
と、脇坂選手が振り返る。
立ち上がり、好スタートを切ったのは脇坂・多谷ペア。4−2から7連続ポイント。この間、脇坂・多谷ペアは好レシーブから切り返すシーンも多く、素晴らしい集中力だった。
パートナーの多谷選手は、
「会津での試合は、試合に出られないチームのみんなに申し訳ない試合をしてしまいました。この試合は、100%、みんなに納得してもらえる試合がしたかった」
そういう気持ちがプレイに現れていた。
第1ゲームは、序盤の貯金がものをいい、一度も並ばれることなく、21−18で脇坂・多谷ペアが取った。
第2ゲーム。後がなくなった末綱・前田ペアだが、落着きを取り戻し、本来の動きに近かった。しかし、この日の脇坂・多谷ペアの動きは秀逸だった。正に「ゾーンに入った状態」。末綱・前田ペアが繰り出す渾身のショットを次々に跳ね返す。
終盤まで一進一退の攻防が続いたが、抜け出したのは末綱・前田ペア。16オールから3ポイントを連取。19−17からついにゲームポイントをつかんだ。
ところが、ここから脇坂・多谷ペアが脅威の粘りを見せる。4連続ポイントで、ついにチャンピオンシップポイントに王手をかけた。
この時点で、実は多谷選手、いっぱいいっぱいだった。足が止まる。
そんな多谷選手をカバーしたのが脇坂選手。この息詰まる局面でも、プレイがまったくぶれなかった。
「あのときは、ホンマに、脇坂先輩に助けてもらいました。ダブルスってええなあって、しみじみ感じていましたね」
対する末綱・前田ペアは、思いがけない重圧に苦しんだ。試合後約30分。まだ悔し涙が止まらない前田選手は、
「プレッシャーは感じていないつもりでした。出る順番はどうあれ、私たちのペアで勝敗が決まるということは、ずっと続いていることでしたから。さいたま、高岡で、1−1の状況で私たちの出番というのは経験しましたから、準備はできていたはずです。でも、今日は受けてしまいました」
言葉で書けばこんな内容なのだが、実際は、言葉は切れ切れに発せられ、消え入りそうなか細い声だった。でも、そんな時でも、彼女はしっかり答えてくれた。
末綱選手は茫然としていた。
「言葉にならないですね……」
一旦は収まった涙が、またこぼれ落ちそうだった。
お互いに、大事な大事な試合だった。一方には歓喜の瞬間が訪れ、一方には悲哀の時が待っていた。敗れたNEC九州サイドには、重苦しい静寂があった。しかし、また立ち上がる。この敗戦を糧に、新しい道を切り開く。
三洋電機の会見は続いた。史上初の6連覇。
6連覇達成にニッコリ。左から潮田選手、小椋選手、脇坂選手、多谷選手。
潮田選手。
「先輩たちが培ってきたものを、私たちの代で止めたくないという思いは強かったです。でも、改めて考えると、6連覇って凄いことなんだなあと思います。脇坂先輩・多谷(オグシオとは同期)の試合は、第1ゲームが終わった時点で、胸にグッとくるものがあって。勝った瞬間は、もう(泣くのを)我慢できませんでした」
小椋選手。
「(史上初の6連覇という)歴史を作りたかった。それに挑戦できる幸せも感じていました。このリーグ戦は、いつも応援してくれている会社への恩返しだと思っていますし、体がどんなにきつくても、壊れてもいいから勝ちたいと思える試合です。チームのメンバー全員が出られるわけではないので、出られない選手の気持ちも背負って戦いました」
三洋電機文化・スポーツ推進部の銭谷欽治部長(日本バドミントン協会選手強化本部長)は、満面の笑顔で試合を振り返る。
「ラリーポイントになってから、ランキング上位者には、勝たなくてはいけないというプレッシャーが、より強くかかるようになった。下位の選手らは、向かって行ける強みを持っているから、順当な勝ち方というのが起こり難くなったね。
話は変わりますが、当社はラグビー部もトップリーグで首位を走っていて、今季はアベック優勝を狙っています。そのためにもまず、バドミントンチームが優勝しておかないと。これで第一条件はクリアです」
最後に最終戦、ヨネックス戦に向けて。最大のライバルであり、昨年は優勝を決めた後だったが、最終戦で対戦。ダブルス2つが敗れ、チームが唯一喫した黒星だった。
「去年は、私たちが負けて、チームも敗れて、優勝はしたものの、不満の残る終わり方でした。今年は絶対に勝って、全勝で優勝を決めたい」
と、会見に出席した4人は声をそろえた。そんな中でも、ひとり多谷選手は、
「勝って、おいしいお酒が飲みたいです!」
と、ひと言。会見場で笑いを誘っていた。
まだ、最終戦が残っている状況。優勝は決まったが、パフォーマンスは控えめ。これもバドミントンの良きところかもしれない。
選手が喜びを爆発させるのは、すべてのスケジュールが終了した後に開かれる納会の時なのだろう。
でも、ひと言。
三洋電機バドミントンチーム、優勝おめでとう!
(取材・文=ライター・佐藤純郎)
【12/23 会津若松大会観戦記】
注目カードは、男女とも、高岡大会に集中していた。しかし、会津若松大会を選択したのには理由がある。
もちろん、人気のオグシオ(小椋久美子・潮田玲子ペア=三洋電機)の動向にも着目したかったのだが、地方で開催される日本リーグの運営も気になったのだ。
会津若松の市街地から車で15分ほど。あいづ総合運動公園内にあるあいづ総合体育館は、人口13万人の地方都市にあっては、堂々たるスポーツ施設と言える。
前日、既に会場の設営がほぼ終了した会場では、参加チームの練習が行われた。
見学に訪れた高校生たちと、潮田選手が集合写真を撮るなど、温かな交流風景なども見掛けられた。
会津バドミントン協会創立60周年を機に開催された今大会。運営側も大会の成功に向け、周到な準備を行ってきたことだろう。
大会当日。会津若松は早朝から氷雨が降った。そんな中、10時の開場を前に、多くのファンが行列を作っていた。
午前中、参加チームの選手たちと、子供たちのエギジビション、公式練習が続き、大会の開始式は12時30分からで、試合開始は13時。選手らが会場入りしてから、既に4時間が過ぎていた。
あるチームのコーチは、
「会場入りしてから試合までの時間が長過ぎて、ウォーミングアップが難しい」と、不安を口にしていた。
コートは体育館を縦に2面の設営。試合を後方から見ると、向こう側の男子コートの様子は、ほとんど窺うことができなかった。
そういう理由で、今回のレポートは女子の試合のみに終始することをご了解いただきたい。

女子:三洋電機対七十七銀行。
第1ダブルス。
実力、実績で勝る小椋・潮田ペアの圧勝と、スコアは伝えている。しかし、内容はそう単純ではなかった。大事には至らなかったものの、この試合では、潮田選手のプレイが精度を欠いた。日頃、
「試合ごとでの、プレイの出来幅を少なくすること」を目標に掲げている彼女は、常にコンスタントにハイレベルなプレイを見せてくれる、という印象がある。なので、珍しい光景ではあった。
「先週の試合(広島ガス戦)が満足できる内容ではなかったので、今週はしっかりした試合がしたいとのぞみました。でも、苦しい試合ではなかったですが、内容では良い試合とは言えません。それがちょっと残念です」と、試合を振り返った潮田選手。その言葉には冷静な自己分析が込められているように感じられた。
パートナーの小椋選手は絶好調だった。
「開始式と試合開始までの時間が少なく、ウォーミングアップの時間が少なく、ちょっと不安がありました。でも気持ちをアップさせて試合に入りました。立ち上がりも良かったし、途中、シャトルがよく飛んだのですが、それもコントロールしながらプレイできました。内容には満足しています」
シングルス:
リーグ全試合の5試合連続出場となる、三洋電機・今別府香里選手。全日本社会人、全日本総合の二冠に輝いた今季、常勝を求められるプレッシャーに抗いながら、ここまで全勝を続けている。この日の試合でも、求められたのは勝利プラス内容。失ゲームはもちろん、失点も最小限に留めての勝利だ。
それが第1ゲーム、もつれにもつれた。決めどころで、連続失点で追いつかれ、2度、ゲームポイントを握られながら、どうにか逆転でゲームを奪取した(25−23)。
第2ゲームこそ実力差を見せつけたが、すっきりしない内容だった。
「なんだかもやもやした試合をしてしまいました。疲れとか感じていないのですが。残りは東京だけ。しっかり調整して、また頑張ります」と、今別府選手。これらのプレッシャーは、なかなか経験できないもの。乗り越えたときには大きな飛躍が待っている。
ここで勝敗は決した。しかし優勝争いで有利に立つためにも、第2ダブルスでも完勝しておきたい。
脇坂選手。
「試合中、終始リズムがとれないままミスを重ねてしまいました。修正もなかなか上手くいかなくて。来週に向けて、自分自身の気持ちを切り替えてきます。今日は、ちょっと上手く話せないですね。すみません」
試合後、いつもきっちり話を聞かせてくれる脇坂選手。この日は辛そうだった。
パートナーの多谷選手は、
「試合が始まって間もなく、ワッキー先輩の調子が良くないのに気がつきました。この試合は私が引っ張ろうと。声をドンドン出して。どんな形でもいいから、泥臭くてもいいから、ネットインでも一本は一本。粘って、粘って、相手がネットに引っかけてしまうようなショットを打ち込みました」
試合後、三洋電機ベンチには、いつになく重苦しい雰囲気が漂っていた。首脳陣が試合内容に不満を感じていたのは明らかだった。
控え室前では、喜多努監督が見たことのないような険しい表情で、脇坂・多谷ペアに指示している現場に出くわしてしまった。
同時に、井田貴子コーチと今別府選手とのミーティングは長時間に及んだ。
喜多監督の総評。
「ダブルスでは出来の良い選手と良くない選手がはっきりしていました。結果、コンビネーションも良くなかった。今別府に関しては、リーチの長い選手との戦い方に課題が見つかったと思います。
勝ちには勝ちましたが、プレイの精度と質は今ひとつ。問題は試合への立ち向かい方なのです。確かに、次節の東京大会のこともあって、一番難しい時期の試合でした。でも、この内容をそのままにしていては、次節、大変なことになりますから」
三洋電機は5連勝。次週、東京大会での決戦にのぞむ。
選手らに抱負を聞いた。まずは潮田選手。
「(NEC九州、ヨネックスと続く)カードはキツイです。でも、そこを乗り越えて勝利をつかめたときの喜びはいっそう大きくなると思います。去年はヨネックスのペアに敗れて、試合でも敗れてしまったので、今年は勝って、全勝で優勝したいと思います」
続いて小椋選手に訊く。
「最後の2戦はリーグが始まったときから分かっていたこと。最大の山が最後にある。でもこの山を乗り越えてこその優勝だと考えています。大阪に帰って、体調管理をしっかりして。チームの力を出し切れば、自然と結果はついてくると思います」
まとめは喜多監督にお願いした。
「シーズン前、日本リーグ、優勝しようとみんなで話し合っています。ならば、自分たちのベースをしっかり出しましょう、と。最後の2戦は厳しいですが、勝つ味を知っている強さが私たちにはある。優勝への気持ちの持ち方、向かう姿勢を、選手たちはわかっているはずです」と、選手らの自覚に全幅の信頼を寄せている。
対する七十七銀行は、これで通算成績が2勝3敗となり、負けが先行してしまった。
チームの主将を務める高橋美紀選手に聞いた。
「私たちのチームは特殊なチームなのです。まず、監督がいません。コーチも社外の方をお願いしていて、いつも練習に来られるとは限りません。練習メニューは自分たちで考えています。会社はリーグの期間、早めに仕事を上がることを許してくれて、応援してくれています。
でも、こういう環境下で、時々、目標が霞んでしまうことがあります。練習を休みたいとか手を抜きたくなるなど、弱気になったときに、背中を押してくれるコーチや監督がいてくれればなあと思うのです。相手と闘う前に、自分たちとの闘いがあるのです。
“世界”と勝負している相手を前に、私たちのチームはどんな挑み方ができるのかなあと思うことはある。勝てるわけないでしょうと考える自分と、そんな自分を必死に打ち消す自分がいますね。
でもバドミントンが本当に好きだし、リーグで勝った時の喜びは、何ものにも変えられないです。それを今季は二度、経験できています。1勝もできないのではないかという不安があったので、初勝利となった広島ガス戦では、勝った瞬間、涙がこぼれました。東京では、NTT東日本に勝てるよう、チャレンジします」
昼近く、雨があがり、会場にはたくさんの観客が詰めかけた。郡山東高校バドミントン部の一年生たち。
「学校に8時に集合してきました。本当に楽しみにしていました」
「ダブルスを組んでいるので、やっぱり小椋選手・潮田選手が好き。攻めと守りの切り替えが凄く上手だし、スピードとパワーを兼ね備えているところもスゴイなあと思います」
「中学の頃は上手になりたいって本気で思っていましたが、進学校に進学してしまったので、勉強とバドミントンの両立が、今は目標です」
みんなバドミントンが大好き、と目を輝かす。
本音を言えば、チームが長時間の移動を強いられたり、運営上の問題など、地方での開催に疑問を感じた大会でもあった。
しかし一方で、こんなことも考えさせられた。
“世界”と戦うハイレベルなプレッシャーに挑むバドミントン。
社会人として、様々な制約と自己との葛藤の中でのバドミントン。
学業との両立を目指すバドミントン。
こうしてこの国には、様々な形でバドミントンが息づいている。どの形であっても、それらが日本のバドミントンを支えているのだ。
尚、24日の高岡大会で、NEC九州がヨネックスを破った。女子では、28日(金)、三洋電機対NEC九州が優勝を賭けた大一番となる。
三洋電機の廣瀬栄理子選手(左)と今別府香里選手は青森山田高校の先輩と後輩。
恩師の高屋仁・元青森山田高校バドミントン部監督から渡された花束を手に。
(取材・文=ライター・佐藤純郎)
【12/16 さいたま大会観戦記】
コートは一面。観客からは、試合に集中しやすいと好評。
会場となった、さいたま市記念総合体育館。こちらもピカピカの真新しさだ。
コートは一面。観客にとっては嬉しい見やすさだ。
刈谷大会の観客の多さには驚きがあったのだが、さいたま大会も負けてはいなかった。会場は広かったのだが、7〜8分の入り。観客の熱気は十分。
試合前、発表されたドローに驚いた。第1ダブルスで、両チームともエースペアを回避したのだ。
NEC九州・今井彰宏監督
「今日の試合は藤井に賭けました。第1ダブルスを落とすケースを想定して、あえてピンチを作ってやろうと」
と、言いながら、オーダーを見た時点で、第1ダブルスの勝利も計算したのではないか。しかし予想外なことに、今井・佐伯ペアが試合に乗り切れない。緊張感なのか、プレッシャーなのか、動きがまったく本来のものではなかった。コンビネーションも狂う。
一方、岩脇・媚山ペアは、プレッシャーを感じながらも、ペースをうまくつかんだように見えた。
第1ゲームは、岩脇・媚山ペアの一方的な内容で終わる。
第2ゲームになっても、今井・佐伯ペアの混乱は続いた。13−19から反撃を試みたが、時、既に遅し。NTT東日本が、まず1ポイントを奪った。
ルーキー・藤井瑞希選手の相手は後藤愛選手。後藤選手は今年の全日本総合で準優勝。ナショナルチーム入りも果たした。前節のヨネックス戦では、米倉加奈子選手を破り、チームの勝利に大きく貢献していた。
ここしばらくの勢いを見れば、2戦で、未だ白星のない藤井選手にとって少々荷が重い相手にも見えた。
第1ゲームは、その懸念どおりの展開。藤井選手はミスが多く。後藤選手は、現在の勢いそのままに、後藤選手が奪った。それでも藤井選手自身は冷静だったと言う。
「総合2位の後藤選手、さすがやなあと思いながら戦っていました」
第2ゲーム、開始直後に3点を先取し、藤井選手は、競り合いながら徐々にペースを握り始めた。その一方で、後藤選手は精神的に追い詰められていた。
「第1ゲームは、粘って私のペースで戦えたと思いますが、第2ゲームに入ると、藤井選手の向かって来る気持ちが凄くて、怖いと思ったほど。気持ちで押されて、負けていました。先に20点目(マッチポイント=団体戦での勝利ポイント)を取っても、勝てる気がしなかった」
と、後藤選手は試合後、告白。藤井選手の気迫の凄さを語った。
第2ゲームを取ると、試合の流れは藤井選手に。両選手とも、スタミナ切れ寸前の状態であったと思うが、わずかに藤井選手に余力が残っていた。
「(前の2試合では)変な責任感を自分で勝手に持っていました。自分が勝たないと負けるって感じで。それを勝つという気持ちではなく、自分の力を100%出そうというように切り替えました。100%の力を出せたら、結果もついて来るからって」
最後のポイントを奪うと、藤井選手は右手を高々と差し上げ、歓喜の声を発した。次の瞬間、顔をおおうと、わずかに涙。息詰まる緊張から解放された瞬間だった。
「インターハイで優勝したときみたいな声が出ちゃいました(笑)」
敗れた後藤選手には悔いが残った。
「シングルスを取るか取らないかで、(日本リーグの)団体戦は全然違います。自分もナショナルチームの一員になって、ナショナルメンバー以外には負けられないという気持ちが芽生えました。それが今日の試合ではプレッシャーになってしまいました。先週、ヨネックスに勝ったことで、今日の試合に勝っていれば、2位も見えていた。勝ちたかった試合でした。精神的にもっと強くならないと」
女子の試合は第2ダブルスで勝負が決まった。
1−1のタイとなって第2ダブルス。エース同士の戦いとなったが、実績で圧倒的に上回る末綱・前田ペアが、組んで一年に満たない田井・樽野ペアを圧倒するのは、明らかと思われた。
序盤こそ競る場面もあったが、それも末綱・前田ペア側のミス。そこに修正を施し、要所で若い樽野選手(ルーキー)のミスを誘った。
点差は一気に開き、第1ゲームは11連続ポイントで圧倒した。
第2ゲーム。末綱・前田ペアに、もはや隙はなかった。
「第1ゲームの出だしで競っていたとき、このままミスを繰り返していると、相手にペースをあげてしまうことになるぞって、檄飛ばされて。集中しました」
と、末綱選手。
「2(番手)ダブルスの記憶はほとんどなくて。私たちの結果で勝負が決まるという、いつもと違う緊張感がありました。相手を圧倒できたなと思えたのは、最後の最後でした」
こちらは前田選手。
試合の終盤を迎えると、両チームのベンチの明暗がはっきりと分かれてしまった。
試合後、NTT東日本・柳谷辰哉監督に聞く。
「第1ダブルスはよく勝ってくれて、チャンスはあったのですが。シングルス、最後の一本が取れませんでしたね。あの第2ゲーム、(後藤選手の)出足が悪くて先行された。それに追い付くのに、いっぱいいっぱいでした。ファイナルも同様の展開。ヨネックスさんに勝って、勢いに乗れて。それが今日、勝ちかけて負けた。残り3試合、もう一度流れをつかめるかがカギになります」
と、無念さを噛み締めた。
勝った今井監督。
「藤井が社会人でもまれて、洗礼を受けて強くなってくれました。今日は藤井ですね。いい根性、見せてくれました」
締めのひと言は末綱・前田ペア。
「今年も残り4試合です。順位のことはあまり考えず、ひとつひとつ勝っていきたい。良い年越しを迎えるためにも」
勝利ポイントを挙げた末綱・前田ペア。珍しく私服でニッコリ。
さて、男子。昨年の王者日本ユニシスが、今季、初昇格の東海興業を圧倒した。
日本ユニシス・池田信太郎選手:
「前節のくまもと大会で単を落としたのですが、ここまで4連勝。まずまず良い感じではないでしょうか。男子の場合、トナミ運輸、NTT東日本、そしてウチの三つどもえなんです。今季はさらに各チームのレベルが上がっています。トナミにはチャンドラ・ウィジャヤという複の元世界王者が入りましたし、NTTには高校3冠の田児賢一クンが入った。ウチも選手層では負けていない。どこが勝っても全然おかしくない。ここからが勝負ですね。今季は実業団、総合とタイトルを逃しているので、リーグ連覇をぜひ実現させたい」
この日の会場は、小中高のバドミントンチームの選手たちが数多く集まった。明日の日本バドミントン界を担う選手が出てくるかもしれない。
そんな中で、超カワイイ(笑)蓮田南中バドミントン部1年の仲良し4人組のお目当ての選手は、やっぱり池田信太郎選手だそうだ。
「プレイはもちろんですが、顔も全部カッコイイです!」
「ラケットバッグに、大きなサイン、書いてもらいました」
−バドミントン好き?−
「(全員声をそろえて)ハイ! 練習はメッチャ厳しいけれど、バドミントン、大好きです」
みんな、頑張って下さい。
さいたま大会は、運営面で高校生が大活躍していた。会場の設営や試合後の後片付けなど、キビキビ作業を行う姿は清々しかった。
また、選手たちは少年少女たちが求めるサインや写真撮影に、丁寧に応じていた。どの会場でも見かける光景だが、もう少しスタッフが整理をしてくれたら、もっとスムースに、より多くの子供たちがサインをもらえる機会が増えるのに、と感じた。
おそらく私たち大人が想像する以上に、選手たちはヒーローであり、ヒロインなのだ。
日本トップレベルの選手たちのプレイが、わずかな時間のコミュニケーションが、みんなの心に刻まれ、明日の目標になれたことを願う。
大阪府大東市では三洋電機対広島ガスの試合が行われた。
試合後の総評をサンヨー・バドミントンチーム喜多努監督に訊いた。
「ダブルスのオーダーを変えてみたのは、お互い、違った雰囲気で試合にのぞむ経験をしてもらおうと考えたからです。ここから先、また、オーダーを組みかえるケースがあることを想定してのことです。
今別府選手の1ゲームダウン。実は今別府選手、今週、若干、調子を落としていました。逆に相手の後藤舞選手は、前節、NEC九州の藤井瑞希選手を破って、乗っている状態。そこでちょっとかみ合ってしまいました。でも、ファイナル。きっちり突き放して勝ってくれました。来週に向け、コンディションを整え、試合にのぞみたいと思います」
次節は23日(日)、24日(祝)の開催。
会場近郊にお住まいの皆さん、ぜひ会場に足を運んで下さい。
(文責=ライター・佐藤純郎)
【12/9 刈谷大会観戦記】
開場前、長い行列が会場を取り囲んだ。
愛知県では12年ぶりの開催となった刈谷大会。その会場となったのが刈谷市総合運動公園内に新設された「ウィングアリーナ刈谷」。そのオープン記念の一環としての開催でもあった。
チケットは前売りの段階で完売。当日は早朝7時から、より良い席を求めて長い行列ができた。会場は文字どおりの超満員(公式発表2,700人)となった。
超満員の会場は熱気に包まれた。
対戦カードは、次のとおり。
男子:大阪トリッキーパンダースVS東海興業
女子:三洋電機VS北都銀行
まずは男子のレポートを。
昨季は4位と躍進。しかし今季は連敗スタートなった大阪トリッキーパンダース。対する東海興業は、今季1部初昇格。刈谷市に隣接する大府市が地元である。両チームとも今季初勝利を目指した。
試合はほぼ地元の東海興業が詰めかけた応援団の熱い声援に応え、3−0、しかも1ゲームも落とさない完勝となった。
東海興業 3−0 大阪トリッキーパンダース
第1ダブルス
高原栄治&大滝祐紀 2(21−14 21−14)0 松井充&中村寿史
第1シングルス
有田裕佑 2(21−9 21−15)0 古川裕輔
第2ダブルス
馬場直樹&宮本雅人 2(22−20 21−19)0 川口佳介&マデ・チャンドラ・ベラタ
同時進行の女子。
三洋電機メンバー
ダブルスはご存知、オグシオ(小椋久美子・潮田玲子ペア)と脇坂郁・多谷郁恵ペア。シングルスは今季の総合女王、今別府香里。豪華メンバーである。
対する北都銀行は、シングルスに起用したのは、主将の三好奈緒ではなく、2年目の楠瀬由佳だった。
その理由を原田利雄ヘッドコーチに訊ねると、
「三好と楠瀬は、練習でいい勝負するようになってきました。そんな楠瀬には絶対的に経験が足りない。日本チャンピオン相手に、どんな試合ができるか。長い目で見た強化を考えている我がチームとしては、この試合、サンヨーさんの胸を借りられる絶好の機会ですから」
結果から言えば、試合は三洋電機の圧勝となった。
三洋電機 3−0 北都銀行
第1ダブルス
小椋・潮田 2(21−14 21−16)0 金上路子・小森美希
第1シングルス
今別府 2(21−11 21−14)0 楠瀬由佳
第2ダブルス
脇坂・多谷 2(21−18 21−12)0 下崎彩・馬上愛美
三洋電機・喜多努監督
「オグシオは、コンビネーションで相手ペアを押せて、いい感じの試合内容だったと思います。今別府は、相手がショートサービスに変えてから、やや狙いを絞り切れず、ラリーの主導権を握られる場面がありました。ただ本来の鋭さが出せるようになって、突き放すことができましたね。脇坂・多谷は、相手とかみ合った印象です。いいショットは打っていましたが、それを返されて、ミスを犯す場面が多かった。でも、第2ゲームはきちんと修正ができていました」
少々の課題もあったようだが、それも「敢えて言うならば…」のレベル。ナショナルチームのメンバーは、年内の海外遠征のスケジュールを終え、リーグに集中するだけとなった。三洋電機の日本リーグが、本格的に始まるのはここからだという印象を持った。
出場した選手たちに、前人未到の6連覇への意気込みを聞いてみると、
潮田選手は、
「チーム紹介のとき、6連覇に挑むって聞いて、改めてスゴイなあと思いました。他のメンバーもそうだと思うのですが、自分たちがいる間は絶対に負けたくない。優勝します!」
と、いきなりの優勝宣言。小椋選手はやや慎重派。
「受け身にならず、挑戦する気持ちでのぞみたいです。この後の試合でも、自分たちが1ポイント、まずは取ることです」
オグシオ、試合後の会見の様子。
今や三洋電機が誇るシングルスメンバー、森かおり選手、廣瀬栄理子選手の日本チャンピオンと肩を並べる存在となった今別府選手。
「チームに貢献したいという思いは強くあります。ふたりの先輩といっしょ、エースとしての自覚も、持てるようになりました。結果は後からついてくるもの。向かって行く強い気持ちを忘れず、やっていきたいと思っています」
全日本社会人と全日本総合。二冠女王となった今、コート上での姿は自信に満ちている。
そして3戦目をきっちり締めくくった脇坂郁選手。
「これまで肝心な時に、チームに貢献できていないなあと思っていて、だから今季はぜひとも勝利に貢献できる結果を残したいですね」
一方、敗れた北都銀行。試合後、ロッカールームでのミーティングは長く、扉はなかなか開かれなかった。帰途を急ぐ選手たちの中で、どうにか金上選手に話を聞くことができた。
「日本チャンピオン相手にどれだけできるか、自分たちなりの課題を決めて試合にのぞみました。結果は残念でしたが、その中で自分たちがイメージした攻撃を仕掛けられたし、それでポイントを奪うこともできました。私たちペアだけでなく、来週の七十七銀行戦に向け、いい手ごたえをみんな感じ取ってくれたと思います。今季のチーム目標はAクラス入り(4位以内)なので、残り3戦、負けられません」
開幕戦で“3強”のひとつ、NEC九州に勝ったが、原田ヘッドコーチは慎重だった。
「たまたま勝っただけのこと。本当の実力はまだまだ差がありますよ。東北・秋田という田舎に根付いたチーム作りを、今、じっくり進めている途中です」
ナショナルチームメンバーをそろえ、前人未到の6連覇に挑む三洋電機。確実なステップアップを長期的な計画で目指す北都銀行。
両者の目標には大きな隔たりがあるようにも見える。しかし、日本バドミントン界の将来にとって、両チームは確固たる存在意義があると言える。
オグシオという“スター選手”の影響は大きいが、刈谷大会は大盛況に終わった。選手間でも会場への評価は最高で、サブアリーナや更衣室などの付帯設備も充実していた。運営もスムースで、スタッフの尽力は素晴らしかった。
この会場と運営。観客の熱心さが、日本リーグのスタンダードになって欲しいものだと感じた。
(文責=ライター・佐藤純郎)