厚生労働大臣杯 第58回 全日本実業団バドミントン選手権大会
(2008.07.8-13 熊本県八代市)

・種目名クリックで対戦結果が表示されます。
種 目優  勝準 優 勝三  位参加数
男子 NTT東日本
(東京)
トナミ運輸
(富山)
YKKAP九州
(熊本)
日本ユニシス
(東京)
150
女子 NEC SKY
(熊本)
三洋電機
(大阪)
ヨネックス
(東京)
広島ガス
(広島)
39

印刷にはPDF形式をご利用ください
成績一覧
男子決勝トーナメント対戦結果
女子決勝トーナメント対戦結果
男子一次リーグ対戦結果
女子一次リーグ対戦結果

観戦記
第2日目(7/10)
第3日目(7/11)
第4日目(7/12)
第5日目(7/13)

大会風景





『第2日目(7/10) 観戦記』


 おそらく、様々な意見があるだろうと思う。しかし、僕自身にとっては、
全日本実業団選手権の予選リーグの中で、一番の注目カードだった。
 女子予選リーグ、グループ8。七十七銀行 vs 日本ユニシス。
 高校、大学時代、数々の実績を残した選手らを擁し、この春、新チームを
発足させた日本ユニシス。団体戦としては、この大会がデビュー戦だった。
 一方、日本リーグ1部にありながら、他のトップチームに比べれば、活動
の環境はけっして恵まれてはいない。仕事とバドミントンを両立させ、その
上で結果を残さなければならない七十七銀行。
 そんな両チームが予選リーグ勝ち上がりと自分たちの存在理由を賭けて
激突した。

 午後1時30分からの予選2試合目は、お互い5−0で完勝。
 七十七銀行はダブルスに光明を見出していた。
キャプテン・高橋美紀&長縄美佳子ペアは、ダブルスに必要な経験を積み重
ねてきていたし、小柄な服部麻衣&新人・今井杏利ペアは、組み始めてから
日は浅くても、服部がしっかりゲームを組み立てているように見えた。
一方の日本ユニシスは、シングルスに活路を見出していた。インターハイ
女王・野尻野匡世。中国人選手のグォ・シン。彼女らが強力なポイントゲッ
ターであることは間違いなかった。しかし、キャプテン・平山優が故障のた
め欠場していた。
つまり、七十七銀行はダブルスで2ポイントを得る。日本ユニシスはシング
ルスでの2ポイントは固い。そして決勝ポイントの3ポイント目をどう奪う
かが焦点となった。
そのためには、オーダー順が勝敗を分ける。

 試合開始予定を30分程過ぎた午後4時。両チームがネットをはさみ、あい
さつを済ませると、オーダー表が交換された。
 狙いどおりのオーダーとなったのは七十七銀行。勝負となる第3シングル
で、七十七銀行のエース・平山愛は若い栗原文音との対戦となった。
 一方の日本ユニシスは、ダブルスどちらかでポイントを奪い、シングルス
2つで勝負を決めるという意図が汲み取れた。が、その目論見は、崩れたの
ではないか、というのが僕の印象だった。

試合は初戦が全てだった。仮にここで七十七銀行の服部&今井ペア(登場順
を変更)が敗れれば、腐心のオーダーは意味をなさなくなる。日本ユニシス
も一番手に浅原さゆり&金森裕子ペアをもってきていた。
浅原&金森ペアは、徹底的に服部に狙いを定めてきた。試合会場の小アリー
ナは、エアコンの効きが悪く、完全な蒸し風呂状態。かこのペアのカギを握
る服部の、体力消耗を狙ったのだろうか?
しかし服部はこの攻勢によく耐えた。第1ゲームこそミスは多く、それが接
戦の末に落とす原因となったが、大きく崩れそうな雰囲気は微塵もなかった。
身長差は20センチ(?)はありそうな服部&今井ペアは、次第にペースをつ
かみ始める。
浅原&金森ペアは、服部狙いがうまくいかなくなって、次第に手詰まりにな
っていった。
観客席からは第2ゲームの中盤以降、今井が左足ふくらはぎをさかんに気に
し始めるのが見てとれた。ファイナルまでもつれ込むのが必至の状況で、最
後までもつかどうか、危ぶまれた。
それでも今井は、表情には一切出さず、自分の役割をこなし続けていた。
第2ゲームを21−18で服部&今井ペアが取り返したとき、この勝負の行方は
ほぼ見えてしまった。コート上の4人の内3人が大学卒のルーキー。唯一人、
経験で上回る服部が、ゲームコントロール力で、優位に立ち、最後は14本に
抑え、予定どおり第1ダブルスを奪った。

第2ダブルスは、序盤で力の差がくっきり出てしまった。長縄&高橋ペアは、
正しくダブルスを出来ていたが、対する打田しずか&栗原ペアは、いくつか
の大会には出ているとはいえ、ダブルスとしての成熟度が全然浅い。
余力を残し、七十七銀行が2ポイント目を奪った。ここまでは完璧に七十七
銀行のペース。
一方の日本ユニシス。ダブルスでポイントを奪えなかったのは、一応想定内
ではあっただろうが、一抹の不安がベンチに漂い始めた。

 しかしシングルスは圧倒的だった。グォ・シンは9本、9本で神ゆかりを
圧倒。続く野尻野も、シングルスにもエントリーした服部を問題なく破った。
しかし、第1ゲームが6本だったのに対し、第2ゲームは終盤粘りを見せ、
16本と盛り返したことで、七十七銀行ベンチは大いに盛り上がり、最後の大
一番に良い雰囲気でつなぐことができた。

 スコアは2−2。全てこの試合にかかることになった。
 問題は立ち上がりだった。おそらく平山愛は、平常心でのぞむことを意識
する余り、なんでもないロングサービスを打ち上げた。
 ところが栗原は、その甘いサービスを見逃すことなく、強烈なスマッシュ
をクロスに叩き込んだのだ。
 一瞬にしてコート上の雰囲気が変わってしまった。栗原には精気が漲り、
平山は顔面蒼白となった。
 第1ゲームは、この1本が全てだった。平山はわずか14本しか奪えずに落
とした。
 第2ゲーム。平山は立ち直れるのか? 栗原は勢いを持続できるのか?
 先に崩れたのは栗原だった。或る瞬間から、信じられない程、リズムを見
失ってしまった。表情から自信が消え失せ、ショットを放つ右腕は縮みがち
になった。何が彼女に起こったのか、皆目分からなかった。
 第2ゲームを逆に14本失で平山が奪い返したとき、立て直す余力が栗原に、
というより、日本ユニシスのベンチに、残されていなかった。
 歓喜の瞬間は七十七銀行に訪れた。

「ずっと予選リーグを当たり前のように勝ち上がって、でもトーナメントの
1回戦で三洋電機やヨネックスに破れて、ベスト16止まりという成績でした。
今回、予選リーグで日本ユニシスと当たるとわかった時、私たちチームが変
わる、変わらなければならない、良い機会だと捉えたのです。選手がそれぞれ、
この試合に向けて、自覚をもってのぞんでくれたと思います。キャプテンとし
ては、みんなにまだまだ甘いよって、言わないといけませんが、今日のこの勝
利は、一瞬でも素直に喜びたいです」(高橋キャプテン談)
 田原洋幸監督も相好を崩す。
「オーダー表を見た瞬間、こちらの作戦は的中したと確信しました。この対戦
が決まってから、選手たちもプレッシャーを感じていたと思いますが、頑張っ
てくれました」

 高橋キャプテンから話を聞いている最中、固い表情の日本ユニシスチームが
会場を後にした。
 率直な感想を述べれば、この試合の敗因は選手のみならず、スタッフの“若さ”
にもある。試合直前の日本ユニシスベンチに控えるスタッフたちからは、負ける
はずがない、どこかタカをくくっているような、奇妙な温さを感じていた。
 また、勝負どころの第1ダブルスと第3シングルスで、弱気になりかかって
いる選手らを、結果的に救うことができなかった。

 多くの逸材を集め、チームをスタートさせた日本ユニシスは、それぞれの若い
選手らを、まずは単純に強くするという社会的使命を担っている。しかし、
大阪インターナショナル、ランキングサーキットなどで折々見かけた選手らの
試合は、この日のように精神的弱さを露呈させながら崩れていく、というシーン
が多い。
 チームが本格的にスタートして、まだわずか数か月だから、というエクスキュ
ーズもあるだろう。しかし、同じような光景を何度も見かけると、チームそのもの
が抱える課題と思わざるをえない。
待ち構えるのは順風満帆の航路ではない。茨の試練の道が続くはずだ。それを乗り
越えていく強固な意志がなければ、歓喜の瞬間は訪れることはないだろう。

 七十七銀行は、日本リーグ1部のプライドを堅持した。昨年度の日本リーグで
高橋キャプテンに初めて話しを聞いて以来、僕自身のこのチームへの思い入れが
ある。
 同じ社員という立場でも、ほぼフルタイムでバドミントンに取り組める選手ら
もいる。一方で、仕事と競技スポーツの両立という困難な命題に取り組みながら、
バドミントンを続けている選手らもいる。そうした両面を維持しながら、この国
のバドミントンは続いてきたのだ。

 熱戦は続く。
様々な思いを抱え込みながら選手らはコートに立つ。その琴線の一部に触れ、ここ
に紹介することが、このレポートの目的でもある。

            (取材/文 ライター・佐藤純郎)


『第3日目(7/11) 観戦記』



シードチームの登場で、会場は一気に熱気を帯びてきた。
男子。注目の“3強”。
まずは、昨年の覇者・トナミ運輸。
北都銀行との対戦となったが、2枚看板であるダブルスを前面に出し、迎え撃った。

  トナミ運輸(富山) 3 − 1 北都銀行(秋田)

 第1ダブルス、チャンドラ・ウィジャヤ&平田典靖ペアのコンビネーションは、
充実感を増しつつある。北京五輪代表の舛田圭太&大束忠司ペアはファイナル入り
したが、最後は12本失でまとめ、結果的には危なげない勝利。
第1シングルスで、北都銀行のエース、佐々木翔選手が、トナミ運輸のルーキー、
古財和輝選手を2ゲーム共、15本失で一蹴。一矢を報いたが、反撃はここまで。
第2シングルスで菊田健一選手が、工藤慶祐選手を2−1で破り、トナミ運輸が
ベスト8入りを決めた。

 日本ユニシス(東京) 3 − 0  ウエンブレー(東京)

 昨年、無冠のまま終わった日本ユニシス。タイトル奪還への思いは熱い。北京
五輪代表、坂本修一&池田信太郎ペアは、第2ゲームこそ16本を奪われたが、
まずは無難な戦いで勝利。
 続く王偉&廣部好輝ペアは、2ゲーム共6本失で完勝。
 さらに第1シングルスに登場の井上知也選手が2−0で勝利。中西洋介選手、
池田雄一選手というエース格を温存させたまま、勝負を決めた。

 NTT東日本(東京) 3 − 0 三菱自動車京都(京都)

 昨年の日本リーグ王者、NTT東日本。選手層の厚さを感じさせる布陣で快勝
した。
 ナショナルメンバー、川口馨士&川前直樹ペアは15本、16本失でまとめ完勝。
続く第2ダブルス、木田圭亮&山口公洋ペアは、8本、12本失という快勝だった。
 佐伯浩一選手、田児賢一選手を後に回し、第1シングルスに登場したのは川内
崇士選手。立ち上がりの第1ゲームこそ先取を許すが、その後の2ゲームは6本、
14本失で試合を決めた。
 エース、佐藤翔治選手は、先のインドネシア・スーパーシリーズで故障。その
回復具合が心配されるが、会場で元気そうな姿を見かけた。勝負どころでの起用
があるやもしれない。

 男子は今大会も、この3強の争いになることは間違いない。土曜日に、戦いは
ヒートアップすることだろう。

 女子もシードチームの登場。しかし、女子の主会場は小アリーナ。エアコンの
効きが悪く、室内は40度近い印象。そんな中で行われた試合は消耗戦の部分も
あった。
 このコンディションは、選手たちにとってあまりに酷。より良いコンディシ
ョン下で試合を行わせることも、大会運営の重要なテーマだ。

 さて、室温に関しては快適なメインアリーナに登場したのは、5連覇に挑む
三洋電機。ドローの妙、グループ企業の三洋CEとの対戦となった。

 三洋電機(大阪) 3 − 1 三洋CE(鳥取)

 北京五輪代表、小椋久美子&潮田玲子ペアが第1ダブルスで登場。相手は
小椋選手の高校時代のダブルスパートナー、宮崎優花選手と、藤原由衣選手の
ペア。
 若干の硬さは見られたが、11本、13本で勝利。順調なスタートを切った。
 第2ダブルスで三洋電機は、脇坂郁&松尾静香ペアを起用。脇坂選手の
パートナー、多谷郁恵選手の負傷欠場によるものだが、ダブルスのスペシャ
リスト、松尾選手の安定したプレイぶりが光った。脇坂選手は無難な戦い
ぶり。全開となるのは、もうちょっと先。
 第1シングルスには、新人の村松瑞穂選手が起用された。立ち上がりから
硬さが目立ち、ミスを連発。ダブルスにも登場した宮崎選手相手に大苦戦。
18本でゲームを失った。
 第2ゲームに入っても立ち直りの兆しは見えず、状況は悪化するばかり。
13本しか奪えず、ポイントを失ってしまった。
 ホロ苦い、悔しい団体戦デビューとなってしまった。
 第2ダブルスには昨年の全日本社会人、全日本総合の女王、今別府香里選手
が登場。第1ゲームは16本失でまとめたが、風の変わった第2ゲームでリズム
を乱す。一時は17−19となったが、ここから冷静にゲームを進め、22−20で
試合を終えた。

  NEC SKY(熊本) 3 − 0 豊田通商(愛知)

 北京五輪代表、末綱聡子&前田美順ペアに加え、藤井瑞希&垣岩令佳ペアと
いう期待の若手ペアを擁し、悲願の優勝を目指すNEC SKY。その初戦もダブルス
で順調に2ポイントを獲得した。
 第1シングルスは岡ひとみ選手を起用。14本、18本失でまとめ、チームに
勝利ポイントをもたらした。
 ドローの悪戯。このNEC SKYと準々決勝で対戦するのが、NTT東日本。ここで
の対決がもったいない好カードだ。

 そのNTT東日本。なんと言っても、昨年の全日本総合準優勝、先日のランキング
サーキット優勝の後藤愛選手。春の大阪インターナショナル覇者の樽野恵選手と
いう、シングルスの2枚看板を擁する。一方で、田井美幸選手が新人、大日方
美弥子選手と組むダブルスも、先のランキングサーキット準優勝と、こちらも
重要な戦力でもある。
 試合は田井&大日方ペア、樽野&奥幸那ペアのダブルスで2ポイント。
シングルスで後藤選手が勝利し、勝ち上がりを決めた。
 これで、NTT東日本 vs NEC SKY戦が決定。
 このカードは土曜日、10時試合開始の準々決勝、最大の注目カードだ。
 NTT東日本はシングルスでの2ポイント。NEC SKYはダブルスで2ポイントが
必須条件。残り1ポイントを第3シングルスで奪い合うことになる。
NEC SKYは、シングルスでの藤井選手の起用法がカギとなる。
 NTT東日本は田井&大日方ペアを、若い藤井&垣岩ペアにぶつけ、1ポイント
奪取を狙いたい。
 いずれにしろ、対戦順の駆け引きから、戦いは始まることになる。

 さて、女子4強残りのひとつ、ヨネックス。相手は、木曜日、新興チーム、
日本ユニシスを意地で破った七十七銀行。勢いはある。
 ヨネックスは出場が危ぶまれた赤尾亜希選手が、体調は万全ではないものの
出場してきた。確かに赤尾選手が不在となると、ヨネックスの戦力は大きく
ダウンする。止むに止まれぬ事情がある。

 ヨネックス(東京) 3 − 1 七十七銀行(宮城)

 松田友美&赤尾ペアは、七十七銀行のエースペア、長縄美佳子&高橋美紀
ペアを相手に、13本、18本で勝利。さすがという印象である。
 ところが第2ダブルスで足元をすくわれてしまう。今別府靖代&伊東可奈
ペアが、服部麻衣&今井杏利ペアに、ファイナルの末、敗れてしまったのだ。
 第1ゲームを6本失で一方的な内容で先取した今別府&伊東ペア。しかし
ここから服部&今井ペアの粘りに悩まされることとなる。
 また高温下の試合で体力の消耗度も勝敗を分けたかもしれない。前日も
この環境下で戦っている七十七銀行は、ブレイク中に氷のうで体を冷やす
など、準備を整えていた。
 この勝利で七十七銀行ベンチは最高の盛り上がりを見せたが、選手層の
厚さでは、やはりヨネックスが一枚上。
 続くシングルスで、ヨネックスの亀谷望選手が平山愛選手を。米倉加奈子
選手が神ゆかり選手を破り、チームを勝利に導いた。

 さて、土曜日は男女共に2試合を消化。準々決勝、準決勝が行われる。
 日曜日の決勝に駒を進めるのは、どのチームになるのか?
 熱い戦いが待っている。

            (取材/文 ライター・佐藤純郎)


『第4日目(7/12) 観戦記』



 この日は準々決勝と準決勝が一気に行われました。
 男女共、日曜日の決勝進出を目指し、コート上には緊迫感が漂い、会場は
熱気に包まれました。

 午前10時。各コートで準々決勝4試合が始まりました。
 この準々決勝、最大の注目カードは、女子、NEC SKY対NTT東日本。
 試合直前に公表された対戦カードを見ると、両チームの駆け引きが見て
取れたものです。
 やや優位に思われたのはNTT東日本でした。

 NEC SKY 対 NTT東日本
 第1ダブルス。
 末綱聡子&前田美順ペア 2(21−11、21−9)0 岩脇史&広岡まり香ペア
 NTT東日本は、ここでポイントを失うことを覚悟しての組み合わせ。
ダブルスでの勝負を、第2ダブルスに賭けました。

 第2ダブルス。
 藤井瑞希&垣岩令佳ペア 0(15−21、18−21)2 田井美幸&樽野恵ペア
 NEC SKYにとって、ダブルスでの2ポイント獲得は至上命題でした。
若い藤井&垣岩ペアには、負けられないという激しいプレッシャーがかかった
ことでしょう。
 今季こそ初めてのペアリングでしたが、昨季はずっと組んできた田井&樽野
ペア。この勝負どころで、そのキャリアを活かし、藤井&垣岩ペアを圧倒し
ました。

 この時点で、シングルスに2枚看板を持つNTT東日本は、圧倒的優位に
立ったはずでした。

 第1シングルス。
 今井幸代選手 1(9−21、21−19、18−21)2 後藤愛選手
 昨年の全日本総合選手権で準優勝して以来、進境著しい後藤選手でしたが、
やはり団体戦のプレッシャーでしょうか、苦戦を強いられました。
ファイナル、もつれながらも後藤選手が勝利。1ポイントを奪いました。
 NTT東日本、王手をかけました。

 第2シングルス。
 幡谷好美選手 2(21−16、24−22)0 樽野恵選手

 勝負事は何が起こるか分からないものです。
経験で上回る幡谷選手が、この土壇場で意地を見せ、チームの苦境を
救いました。
今季、好調の樽野選手でしたが、勝利ポイントがかかった大事な場面で、
結果的にプレッシャーに押し潰されたことになります。
最終的に、第3シングルスに藤井選手を残しておいたNEC SKYが優位に
立ったわけです。

 第3シングルス。
 奥幸那選手 0(21−9、23−21)2 藤井瑞希選手

 昨季の日本リーグで経験を培った藤井選手。団体戦での戦い方で、精神的
に奥選手を上回っていました。
 第2ゲームこそ延長に入りましたが、競り勝って、チームに勝利ポイント
をもたらしました。
 試合時間は4時間近く。女子“4強”の意地がぶつかり合った、団体戦の
醍醐味が凝縮された試合でした。

 勝ったNEC SKY。準決勝でヨネックスを相対します。
 さて、敗れたNTT東日本。悔しさがチームを包み込みます。試合終了
直後の両チームのあいさつでも、涙をこらえられない選手が多く見られました。
 後藤選手に話を聞くことができました。
「オーダー表を見た時点では、ウチが有利だと感じていました。狙いどおり

ダブルスを1勝1敗で終えたわけですから。でも、私も含め、団体戦でかかる
プレッシャーは、やはり独特のものです。
第2ゲームはペースを上げて、攻勢に転じてきた今井選手に、上手く対応し切
れなかった。ゲームを取られたとき、去年の日本リーグで、藤井選手に逆転負
けしたシーンがよぎったのですが、なんとか踏ん張ることができました。樽野
選手もキツかったと思います。
 結果は残念でしたが、気持ちを切り換え、8月末の全日本社会人にのぞみた
いと思います」

 5連覇に挑む三洋電機は、エース・ダブルス、小椋久美子&潮田玲子ペアを
温存。しかし、出場した選手らがきちんと仕事をこなし、結果的には3−0と
いうスコアで三菱電機を破りました。

 さて、男子。ディフェンディング・チャンピオン、トナミ運輸。日本リーグ
王者、NTT東日本。北京五輪代表、池田信太郎&坂本修一ペアを擁する日本
ユニシス。“3強”が順当に勝ち上がりました。

 1時過ぎ、男子の準決勝が始まります
(女子はまだ準々決勝が続いていました)。
 トナミ運輸 3 − 2 日本ユニシス

 息詰まる熱戦を制したのは、トナミ運輸でした。
 トナミ運輸の舛田圭太&大束忠司ペア、日本ユニシスの池田&坂本ペアと
いう、北京五輪代表のダブルス勢が、揃ってファイナルの末に敗れる波乱
(お互い、外国人登録選手を配したペアとの対戦でした)。
 日本ユニシスには、シングルスの2枚看板のひとり、中西洋介選手を起用
しなかった疑問が残るのですが、結局、シングルス勝負になって、トナミ運輸
の層の厚さに屈したことになります。

「去年、無冠に終わってしまったので、今年は優勝したい大会でした。僕らが
勝ってさえいれば、流れは変わっていたのですが。“3強”との戦いでは、
ほんのちょっとしたことで、結果が大きく変わってきます。そこでいかに競り
勝てるかだと思います。数日、悔しさは残るでしょうが、気持ちを切り換え、
オリンピックに照準を合わせていきたいと思います」
 悔しさを滲ませながら、日本ユニシス、池田信太郎選手が語ってくれました。
また、この4月から新キャプテンとなった坂本修一選手。最初の団体戦を優勝で
飾ることはできませんでした。
「僕らの試合で言えば、課題としている守りながら、いかにポイントを奪うかが
まだ十分に発揮できなかった試合だったと思います。第1ゲームはいいリズム
だったのですが、第2ゲーム以降は、チャンドラ選手のペースにはめられて
しまった試合でしたね。それを断ち切ることができなかった。彼には海外で戦う、
他のペアとは違う強さがあります。
 キャプテンといっても、海外遠征続きで、何もしていないのですが(苦笑)、
やっぱり優勝したかった。悔しいですよ。
 まあ、それでもここから、今度はオリンピックに向けて立て直していきます」

 もうひとつの決勝進出チームはNTT東日本。第1シングルスで佐伯浩一選手
がポイントを失う番狂わせがありましたが、地元、熊本のYKKAP熊本を
3−1で破っています。
 故障が不安視された佐藤翔治選手は、田児賢一選手と組んでダブルス、
そして勝利ポイントを上げたシングルスと、チームの大黒柱として、十分な
働きを見せました。

 決勝戦は、両チーム、総力戦となる接戦になることでしょう。


 女子の準決勝。
 三洋電機 3 − 0 広島ガス
 小椋久美子&潮田玲子ペアを第1ダブルスに起用。
 第2ダブルスの脇坂郁&松尾静香ペア。そして第1シングルスの今別府香里
選手。それぞれがきっちり役割を果たし、危なげなく決勝進出を決めました。

 もうひとつの準決勝。
 NEC SKY 3 − 0 ヨネックス

 ライバル対決となった第1ダブルス。
 末綱&前田ペア 2(22−24、21−14、21−5)0 松田友美&赤尾亜希ペア

 ヨネックスの赤尾選手、5月に開腹手術を行い、今大会が復帰戦でした。
しかし、体調は万全とはいえない状態。それでも、ライバル、末綱&前田ペア
との対戦では、場内を静まり返らせる大熱戦を見せてくれました。
 第1ゲームの死闘は、正に、これぞ世界レベルというせめぎ合いでした。
その緊迫感に会場が飲み込まれ、観衆が固唾を飲んで見つめるため、体育館
全体が静まり返るという場面さえ起こりました。
 あのゲームをライヴで観られたのは、本当に幸運な方々だと思います。

 でも、意地で競り勝った松田&赤尾ペアでしたが、やはりコンディション
の不安が露呈してしまいました。第2ゲーム以降は急激にペースダウン。
末綱&前田ペアの安定した強さばかりが目立つ試合となりました。
 もう一度、コンディションを整え、日本リーグ、全日本総合で、ライバル
たちとの熱い闘いを見せて欲しいものです。

 総合力で上回るNEC SKY。NTT東日本戦での疲れも見せず、ヨネックス
に完勝しました。

 試合終了後、ヨネックスのメンバーに涙が溢れていました。その真意は話を
聞いた松田&赤尾ペア、そして米倉加奈子選手が明かしてくれたのです。

「この大会に向けて、多少、無理をして合わせてきたのは事実です。第1ゲーム
こそ戦えましたが、そこまででした。やっぱり体力が続かなかった。この大会で
栂野尾昌一監督が勇退されるので、なんとしても優勝して送りだしたいという
思いがあったのですが、それがとても心残りです」
 と、赤尾選手。最後は、皆さんご存知の、あの大きな両目から、大粒の涙が
こぼれ落ちていました。長くコンビを組む松田選手も、悔しさ一杯です。
「赤尾が本当に無理をして出てくれたのですが、やっぱり練習不足は否めま
せんでした。この大会を最後にお辞めになる監督に、喜んでもらいたい一心
だったのですが、残念な結果に終わってしまって」
 傍らで赤尾選手を労わるように話す松田選手。この二人にだけ通じ合う思い
があるのだろうと、感じさせられたものです。
 そしてこの日は、試合することなく終わった米倉選手。
「栂野尾監督は定年退職されるのです。本当は去年だったのですが、松田&赤尾
ペアの北京挑戦のため、一年、延ばしていただいていました。どういう結果で
終わっても、最後は監督を胴上げしようねって話していたのですが、あまりに
不甲斐ない内容だったので、監督、恥ずかしいから辞めてくれって。それが
本当に悔しい。
 今回、結果は残せなかったのですが、若手も成長してきています。私がチーム
にできることを、しっかりやっていこうと思っています」
 コート上の堂々とした振る舞いとは別に、オフコートの米倉選手は本当に
気さくです。それでも、試合直後に流した涙の余韻は、胴上げができなかった
話を口にされた時、再び戻ってきたようでした。最後は笑顔でしたが、目元
には少し、涙が滲んでいたものです。

 残すは男女共に決勝戦のみ。
 男子は、連覇を目指すトナミ運輸。2年連続準優勝の悔しさを晴らしたい
NTT東日本。
 決勝戦に相応しい強豪同士の対決です。

 女子は、5連覇に挑む三洋電機。一昨年の東京大会以来の決勝戦進出を
果たしたNEC SKY。
 現在のチーム状況を見れば、日本一を決するに相応しい、最高のカード
となりました。

 男女共、オーダーをどう組んでくるか、戦いは、まずはそこから始まり
ます。

               (取材・文/ライター・佐藤純郎)


『第5日目(7/12) 観戦記』



 男女決勝戦が行われました。

 NTT東日本 3 − 2 トナミ運輸

 NTT東日本が05年以来の覇権奪回を達成した。
出足のダブルスで連敗。2ポイントを失う、苦しい展開となります。
しかし、シングルス勝負となって、チームは息を吹き返しました。
第1シングルスに、エース・佐藤翔治選手が登場。

佐藤選手 2(21−5、21−16)0 菊田健一選手
 田児賢一選手と組んで第1ダブルスにも出場した佐藤選手。しかし疲れを
微塵も見せることなく、持ち前のスピード感豊かなプレイを展開。菊田選手
を圧倒しました。

 続く第2ダブルス。

 佐伯浩一選手 2(21−13、21−15)0 劉志遠選手

 地力に勝る佐伯選手が快勝です。
 これで2−2にタイに。第3シングルスに全てがかかることとなりました。

 田児賢一選手 2(21−10、21−16)0 古財和輝選手

 この春、高校を卒業したばかり。しかしトマス杯代表メンバーのスーパー
ルーキー・田児選手が、昨季のインターカレッジ王者・古財選手を圧倒しま
した。
 チャンピオンシップポイントがかかった試合にもかかわらず、とにかく
田児選手の落ち着いたプレイが素晴らしい。
「2−2で迎える団体戦というのは、これまで何度も経験しているので、
プレッシャーとかを感じることはありませんでした。それに、まだ入社した
ばかりで、会社のためにというのも、なんだかピンとこなかった。とにかく、
監督や先輩たちと一緒に、優勝の喜びを味わいたいという思いだけでしたね」
試合後、淡々と話してくれた田児選手でした。

 2年連続準優勝から見事、復活。日本バドミントン協会強化本部部長・銭谷
欽治氏は、
「佐藤選手は故障も癒え、万全の状態に近かった。田児選手は先のインドネシア
・スーパーシリーズでもベスト4入り。確実に力をつけています。NTT東日本
の優勝は選手層の厚さが勝因でしょう」
 と、戦評を語ってくれました。

 そして女子決勝です。

 NEC SKY 3 − 1 三洋電機

 NEC SKYが5年振り、2度目の優勝です。三洋電機の5連覇はなりません
でした。

 勝敗を分けたのは、2つのダブルス。

 末綱聡子&前田美順ペア 2(21−18、21−11)0 小椋久美子&潮田聡子ペア

 先のインドネシア・スーパーシリーズで、準優勝という好成績を残した末綱&
前田ペア。その勢いのまま、小椋選手が故障から復帰したばかりの小椋&潮田選手
を圧倒しました。

 優勝チーム会見には、末綱&前田ペア、今井彰宏監督が出席しました。

「今日は落ち着いてプレイできたことが勝因だと思います。相手の動きも球も
よく見ていたし、どのコースを狙ってくるかも見えていました。絶対に引かない
と試合前に決めていましたが、そのとおり、一度も引かなかった」
 と、嬉し涙の末綱選手。一方の前田選手はトレードマークの笑顔が絶えません。

「小椋&潮田ペアに勝ったことより、素直に優勝したということが嬉しい。
この気持ちは言葉で言い表せない位です。今日は2人ともサーブが良くて、サーブ
回りで優位に立てたことが勝因のひとつだと思います」
 悲願の三洋電機越えを果たした今井彰宏監督。
「監督になって初めて三洋電機に勝つことができました。こんな嬉しい日はありま
せん。いつもは叱ってばかりの選手たちですが、今日は全員が頼もしく見えました」

 ダブルスとシングルスで貴重な2ポイントを挙げた藤井瑞希選手。

 藤井瑞希&垣岩令佳ペア 2(21−16、11−21)0 脇坂郁&松尾静香ペア

 今井監督が「チームのエースは藤井」と断言する、その藤井選手。青森山田高
時代、インターハイを制したペアが、1年後輩の垣岩選手がこの春、入社して復活
したのです。
「ダブルスのときは、先輩(末綱&前田ペア)たちが勝って作ってくれた流れを、
ムダにしない、切らさないことを考えてプレイしました。垣岩が時々弱気になって、
引いたときにも、励まして戦うことができました」

 お互いのチームの監督が、1勝1敗と予想していたダブルスは、NEC SKYの
2連勝。これで一気にNEC SKYが優位に立ちました。

 続く第1シングルスでは、三洋電機の今別府香里選手が、幡谷好美選手を、16本、
14本失で破り、1ポイントを挙げました。

 王手をかけているNEC SKY。チャンピオンシップポイントをかけ、再び藤井
選手が、今度はシングルスで登場です。

 藤井選手 2(21−12、21−14)0 村松瑞穂選手

 試合前の練習をコートサイドで見ていたのですが、いつも以上に集中した藤井選手
の表情が印象的でした。
「自信を持ってコートに入れました。去年の日本リーグでの苦しい経験も活きたと
思います」
 今井監督は、昨季の日本リーグで、序盤、なかなか勝てない藤井選手を、それでも
辛抱強く使い、リーグ終盤にはしっかり結果を導き出したのです。

 それでも第2ゲームが始まると、藤井選手の動きに若干の翳りが見えました。
「セカンドに入る前、キツイなと思って。足もつりかけていました」
 ただ、そうした藤井選手の変調に付け込めるだけのゆとりが、村松選手にはありま
せんでした。入社1年目。王手がかかった状況下での試合は、村松選手にとって、
かなりの重圧となっていました。

 藤井選手が放ったロングサービスを、村松選手がリターンスマッシュ。それが
ネットにかかった瞬間、NEC SKYに歓喜の時が訪れました。両手を突き上げた
藤井選手に、ベンチの選手らが駆け寄り抱きつきます。

 その光景を呆然と眺める三洋電機の選手たち。
 勝者と敗者の明暗が、残酷なまでに映し出された瞬間でした。

 敗れた三洋電機からは、小椋&潮田選手が会見に出席しました。

「3か月、試合から遠ざかっていて、試合勘がまったくない状況でした。そんな中で
この大会では、とにかく試合に勝てたことが、私にとっては良かったこと。
ここから2人で、オリンピックに向けてコンビネーションを合わせて練習していき
たい」
 と、小椋選手。一方の潮田選手。
「自分たちが今、どれだけやれるのか、わかっていない状況があって、今日の試合が
今の自分たちの現状です。レシーブで引いてしまって、攻撃に変えられない。リズム
が悪くて、粘り強いレシーブができなかった。自分のプレイに自信を取り戻さないと、
良いレシーブはできないのだ知りました」

 悔しさを押し殺して、きちんとした受け答えをしていた小椋選手、潮田選手でしたが、
5連覇を逃したことについては? という質問の際には、さすがに表情が曇りました。
「大変なことをしてしまったな……」
 と、小椋選手。後は言葉が続かず、見る見る内に涙が溢れてしまいました。

 潮田選手は、
「会社の方々とか、応援している方々に申し訳ない気持ちでいっぱいです。この悔しさは
オリンピックで晴らしたいと思います」
 と、強い決意を語ってくれました。

 三洋電機の喜多努監督は、
「ダブルスでは小椋&潮田と末綱&前田の、今の時点での力の差が出てしまいました。
第1、2を組替え、1−1を狙う方法もあったのですが、チャレンジと思い、ああいう
形にしました。日頃から強くなるために練習をやっているつもりでいましたが、どこか
で抜けている部分があったのかもしれません。そういう不完全な部分が、今日は逆に、
NEC SKYさんの力を引き出してしまいました」
 と、決勝戦を振り返りました。

 今井監督の弁です。
「オーダーについては、我がチームのエースである藤井を、ダブルス、シングルスの
両方で試合をさせたかったのです。なので、シングルスで2番手に据えました。1番手
はあくまで幡谷(好美選手)ですから。藤井&垣岩ペアは春先から徹底的に練習をさせ
てきました。今日の2人は、本当に素晴らしかったです」

 こうして08年の全日本実業団が終わりました。この先、バドミントン界は、北京オリ
ンピックに向けて走り出します。参加する10名の選手たちには、是非、悔いのない準備
と戦いをして欲しいと願うものです。
 オリンピックが閉幕すると、全日本社会人選手権(会津若松)が行われます。
9月にはヨネックス・オープン・ジャパン(東京)。

 バドミントン界の熱き夏が、間もなく始まります。

          (取材・文/ライター・佐藤純郎)